ハヤブサと幸村ケンシロウに学ぶ

 やっぱり、昔(と言っても10年も経たないが)のプロレスを知らない人にも彼の存在を
知って欲しいと、昨日再認識した。

彼の名前は「ハヤブサ」という。

僕は昨夜熊本で開催された「幸村ケンシロウ20周年興行」の観戦に行った。

僕の一番のお目当てはハヤブサだった。

2000年代初頭、大きな身体をしならせて、華麗な空中殺法をこなす、素晴らしい
レスラーがいた。

今でもファイヤーバードスプラッシュの迫力は忘れられない。

彼の名は「不死鳥」ハヤブサと言った。

ハヤブサは大仁田率いるFMWに入門、2年ほど素顔で日本で戦い、海外遠征にて
マスクマンとしてのキャリアをスタートさせた。

その後、一時帰国した新日のジュニアのオールスター”スーパーJカップ”の活躍で
大ブレイクし、一躍全国区の認知度を得た。

その後、FMWにおいて守旧勢力である創始者・大仁田との対立を経て、新生FMWの
エースとなり、文字通り団体の屋台骨を支えた。

しかし、そんなハヤブサの頑張りも報われず、団体経営は悪化の一途を辿り、そんな
中、ハードワークがたたり、痛ましい事故が起こってしまった。

マンモス佐々木との一戦の最中、得意技のラ・ブファドーラを失敗、頸椎を損傷し
全身不随の重傷を負ってしまう。

あの時の衝撃が今でも蘇る。

あのリングを縦横無尽に飛び回っていた「不死鳥」が動けなくなってしまったのだ。

明らかにオーバーワークのせいだった。

そして1年後、懸命のリハビリにより奇跡的に自力で立ち上がるまでに回復した
ハヤブサは車椅子に乗ってではあるが、リングに帰って来た。

自身がコミッショナーである、WMF旗揚げ興行に。

ハヤブサの挨拶はもちろん大声援で迎えられた。

 「あのときから今までいくつの涙が流されたことでしょう。

  僕らはあの頃の夢を紡いでいく、新しい夢を作っていく、
 
  そういう団体を目指します」

ハヤブサは震えながら杖をついて、ゆっくり車椅子から健気に立ち上がった。

ハヤブサの目は前を見つめていたが、真っ赤で潤んでいた。

僕から見ると、ハヤブサの身体は弱った足、細くなった手、なくなった筋肉、
全てが絶望的に見えた。

僕も何か目の中が湿ったように感じた。

しかし、だがしかし...。

ハヤブサの声は続く。

「見続ければ...諦めなければ夢は終わらない!」

搾り出す声、元気なころとは別人の張りのなさだった。

でもだからこそ、余計僕の心に響いた。

あれから月日も経ち、ハヤブサは盟友・ミスター雁之助と共に売店に座っていた。

僕は思わず、ハヤブサの前に立ち尽くしてしまった。

ローカル興行であり、お客さんの数もまばらで時間が早いのもあったのか、売店に
客はまばらだった。

僕はハヤブサのサイン入りの写真集を買った。

お金を渡そうとすると、横から雁之助が馴れた手つきで手を伸ばす。

そうか、ハヤブサはそういう動きも出来ないのか。

売店を離れる時に「ありがとう」とハヤブサは言った。

本当は一緒に写真を撮りたかったが、何故か今のハヤブサを写真に収めたらダメなん
じゃないか、そう思った。

メインの試合前に、ハヤブサと雁之助のトークショーがあった。

内容は今まで聞いた事のある話で、そこまで興味深いものではなかったが、ハヤブサが
喋っている姿を観るだけで僕は満足だった。

現在、ハヤブサはCDも出す歌手でもある。

1曲その場で披露してくれた。

ああ、こんなに歌声にハリがあるぐらい回復したんだ。

僕は何故か、会場の天井を見上げていた。

ハヤブサは歌い終わると、こう力強く言った。

「見続ければ、諦めなければ夢は終わらない、、お楽しみはこれからだ!」

僕は顔を天井に向かせたまま、なかなか下げる事が出来なかった。

そうだよな、ハヤブサ。

ハヤブサみたいなとんでもないアクシデントから復帰してきている人もいるのに、
そういう人でも夢を諦めず、見続けているのに、何なんだよな。

そうだよ、夢を終わらせるのはいつだって自分なんだよな。

いつだって、終わらせそうになった時には、このハヤブサの言葉を思い出さなきゃな。

ありがとう、ハヤブサ。

そして、必ず不死鳥よ、またリングを舞ってくれ。

ハヤブサと我々ファンが諦めない限り...。

そして、メインは本日の主役・幸村ケンシロウ選手であった。

幸村選手は先月の試合中に大腿四頭筋を断裂するという、とんでもないアクシデントに
見舞われ、常人であれば即入院であるにも関わらず、本日の興行が特別なモノである事を
踏まえ、ドクターストップを押しての出場であった。

まともに歩けもしない足で、相手に懸命に向かって行く、その姿は素晴らしかった。

確かに試合にはならなかった。

でもパートナーのドラゴン・藤波のフォローのお陰で何とか勝利を得た。

試合後のドラゴンのマイクが全てだった。

「こういう状態でも男だったら、やらなきゃいけない時はある。
 
 次は完璧に治して、またこのお客さんの前に帰って来いよ」

ハヤブサと幸村ケンシロウは熊本人。

僕も熊本出身だから、負けないように頑張ろう!と思った。

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