1994年3月、卒業式を終えた僕はキャンパスの中央にそそり立つ、福岡大学の
シンボルの文系センターにある、ゼミの教授の部屋に足を踏み入れていた。
僕はもう会う事はないかもしれないゼミの仲間たちと卒業の祝杯を挙げながら、
目の端ではここにいるであろう、ある女の子の姿を探した。
その子は部屋の片隅で、いつも通り少々控えめに椅子に腰かけていた。
いつもと違うのは振り袖姿で、それがとてもよく似合っていた。
狭い教授室だ。
20人のゼミ生でごった返し、なかなかその子の隣にいけない。
僕は纏わりつく麻雀仲間たちを何とか振りほどきながら、彼女の近くへと歩を進めた。
「卒業おめでとう、お互いに」
彼女は寂しそうに僕に笑った。
僕はその彼女の儚げな笑顔に何も声が掛けれなかった。
ほどなくして会は散会になった。
僕は彼女との時間を名残惜しく思いながら、肩を組んでくる悪友の酒臭い息を
受け止めながら、階下に降りるエレベーターに乗った。
そのエレベーターに彼女は乗っていなかった。
エレベーターが地上に到着し、外に僕らは吐き出された。
僕はその時、自分が学生じゃなくなったのを感じた。
これまでの仲間も今日からは旧友だ。
僕はそう思い、今から飲みに行こうという誘いを断り、1人バス停へと歩いた。
文系センターからバス停まではまずまずの距離だ。
僕の頭はぼんやりしているような、これからの事を考えているような不思議な感覚だった。
ふと、背後から声が聞こえた。
※ だんだんお尻がむず痒くなってきたので、ここからはいつもの調子で書きます。
それはこれまでのキャンパスライフで何度も聞いた妖精の声だった。
「梅崎くん、ちょっと待って!」
振り向くとそこにはキャンパスの妖精である、件の彼女・柴田麻衣子ちゃんがいた。
走って来たのか、麻衣ちゃんは肩で息をしながら言った。
「もう、、歩くの早いんだから、、」
僕は麻衣ちゃんは本当に可愛いなあと思いながら、バカみたいに、ゴメンとか言った
ような気がする。
麻衣ちゃんは息を整え、気を取り直したのか、笑顔になり、こう言った。
「一緒にバス停まで行こ」
またまたバカみたいに、ウンとしか僕は言わなかったような気がする。
2人で並んで歩きながら、僕はこの瞬間が永遠に続けばいいのにと思っていた。
麻衣ちゃんが言った。
「梅崎くんは東京に行っちゃうんだよね、、、」
おぉ、何で麻衣ちゃんよ、そんな話を悲しげに言うんだい?
高まる鼓動とは裏腹に、またまた僕はバカみたいに、ウンと言った。
麻衣ちゃんが話を続ける。
「寂しくなるね、、私ね、、、」
キャンパスの妖精よ、一体君はその可愛い口からどんな言葉を僕に投げかけようと
しているのだ?
僕が高まりを迎えようとした瞬間だった。
背後からダミ声が聞こえた。
「ね~、麻衣~」
振り向くと、キャンパスのドワーフと呼んで差支えない、麻衣ちゃんの友達である
2足歩行生命体が立っていた。
その時の麻衣ちゃんは何か怒っているような、複雑な表情をしていた。
僕は可愛い子というのは、こういう時の表情も可愛いのだという事を知った。
麻衣ちゃんは溜息をついて、僕を向いてこう言った。
「梅崎くん、またね、、」
寂しそうに手を振った麻衣ちゃんは、ドワーフに拉致されていった。
それを見送る僕は、小さくなる麻衣ちゃんの背中に向かって、心で叫んだ。
「麻衣ちゃん、またねとかもうないじゃん!!!」
あの頃、携帯電話が普及していたら、、、、どうなっていたのかな?
今日、会社で携帯を探している時にふと思い出した青春の忘れ物です。
まあ、携帯電話は関係ないか。