理想の先輩像

私が最初に配属になった部署は、会社では人が居つかないと
有名な事業部でした。
事実私が配属になって、男性の先輩は40代の係長を残して、
みんな辞めてしまいました。
それぐらい部長のキャラクターはきつかったのです。
私もさすがに最初から、親子ぐらい年の違う部長には軽々しく
話は出来ず、この係長を(彼とも親子ぐらいは離れていましたが)
唯一の先輩社員として慕いました。
係長からは、仕事のことも色々教わりましたが、それよりも
まずは社会に出てきたばかりの、何も分からない書生の私に、
社会のことを色々教えてもらいました。
毎日のように博多の歓楽街・中州に連れて行ってもらい、
係長は若い頃から、中洲に入り浸っていたようでかなり詳しく、
色々な遊び場に連れていってもらいました。
私は係長と飲んで、ただの一度も飲み代を払ったことは
ありませんでした。
それが今では心残りです。
現在係長とは音信不通ですが、またいつか今度は私の支払いで
肝臓が破裂するぐらい飲んでいただきたいと思っています。
ある日私は係長に聞きました。
「S田さん、何でもいつも僕に奢ってくれるんですか?」
係長はつまんなさそうに言いました。
「俺が新入社員の時に先輩が必ず奢ってくれたんよね。
 その時先輩が後輩が出来たら必ず奢ってやれよ、それを
 うちの会社の社風にしようぜって言ってて、それを実践して
 るんよ、ただそれだけ」
その後、間を置いて急に笑顔で、
「良い習慣だよなあ~。お前も絶対にそうしてくれよ!」
と言いました。
S田さん、私はあの時に言われたことを今の会社でも実践して
いるつもりですよ、敬愛する先輩の命令ですから。
閑話休題
ある日部長と二人で、宮崎県に出張に行ったときのこと。 
帰りが遅くなり、遅い食事を通りがかりのラーメン屋でとった。
食べ終わり、店を出ようとした時に、おもむろに部長が
1000円札を一枚私に渡した。
私はてっきり部長が、奢ってくれるものだと思っていたので、
正直びっくりした。
(何だよ、不足分は自分で出しとけかよ)
部長が先に店を出て、私がレジで支払いをした。
二人合わせて1400円だったと思う。
ちょっと不満だったが、まあいいかと思い、助手席に乗り込んだ。
何故か車が発進しない。
気付くと、部長が不機嫌そうに、僕に手のひらを突き出していた。
「おつりはどうした」
嗚呼、やっぱり僕は部長のことを理解できていない。
部長は自分の分のみを、単に私に渡しただけだったのだ。
私は急いで店に戻り、1400円の内訳を聞いたのだった。
色々な先輩がいる。
もちろん良い先輩も、そうでもない先輩も色々いる。
またの機会に他の先輩(ただ単に早く会社に入っただけの人
も含めて)のこと書こうと思う。
ちなみに社風にはなりませんでしたよ、S田さん。

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