部長お疲れ様でした

 自明の理というわけではないが、世の中には結論も決まっており、正しいか正しくないかに
関わらず、必ずそうなるという物事がある。

ただ、何とも言えないモノ寂しさを感じる場合がある。

先日、10年ほどお取引いただいている、小売店の部長さんが事務所に来訪された。

電話の際の声のトーンから、何となく予想はしていた言葉が部長の口から発せられた。

「今月で会社を退社することになったから」

いつもそうだが、僕はこういう時に掛ける言葉が思い付かない。

特に部長は非常に真面目な方で、ハッタリも嘘もなく、だからこそ僕も商売は抜きにして、
商売上応援させていただいてきたつもりだった。

正直、その会社との取引も部長に恥をかかせてはいけないよな、という気持ちだけだった。

「今まで色々な社員・バイトのクビを切ってきた。その責任は取らなくては」

「小売部門の不振の責任を誰かが取らなければならない」

社長に辞めると言ったら、自分の予想よりも早い時期を提示されたよ、と部長は力無げに
微笑まれた。

僕は部長の笑顔が好きだった。

その笑顔が何とも泣き顔のように見えた。

朴訥な人柄だが、歯に衣着せぬ(決して部長の場合はこの表現は矛盾しない)部長の一言、
一言が日本酒のように心にしみた。

経営層としては、老いてしまった管理職は必要なく、またそういう方たちを養う余裕は
今のアパレル業界の企業にはない。

そのジャッジは心苦しいが、正しい。

いかに過去は会社に貢献したとしても、それを忘却の彼方に追いやってしまうほど、我々
の業界は閉塞している。

我々企業戦士は競走馬と一緒だ。

過去にどんなによく走った馬だとしても、足を折ってしまえばそこまで。

安楽死が待っているのみだ。

だから、死ぬまで走り続けなくてはならない。

自分の腕で「ゼニ」を稼ぐ人間でいくつになっても、居続けなればならない。

それは大変しんどいことで、本当に一握りの人間しか残れはしない。

「部長、お疲れ様でしたの会」を企画しなくては。

あと、なんか仕事なかったかな?

それといつも思う事が、こうやって志半ばで辞めていく人たちがいる。

僕はまだまだこの業界に留まる事を許されている。

そのありがたさを心に刻んで、その人たちの無念を両肩に乗せ、毎日この業界で戦って
いくのが、僕の義務であり、ライフワークだ。

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