阿修羅・原というレスラー

 プロレスは壮大な戦国絵巻であり、些末なる人間の一世一代のドラマである。

1987~1989年にかけて、全日本プロレスがもっとも熱かった時代、全速力で駆け抜けた
ユニットが「天龍同盟」だった。

その妥協なきファイトにより、一躍マット界の主役に躍り出た天龍源一郎の傍らには常に
阿修羅・原の姿があった。

原の存在なくしては天龍同盟はあり得なかったし、もしかしたら今でも現役を続ける天龍と
いうレスラーも居なかったかもしれない。

原の、滅私奉公で天龍に仕える姿は、そこまで男が男に惚れるものかと子供心に思った。

天龍も原がコーナーに控えているから、思い切り暴れられた。

そんな蜜月の最中、とんでもない悲劇が起こる。

原が生活の乱れ(一説によると借金問題)を理由に、馬場社長より解雇されてしまう。

天龍の心中はいかなるものだったのか。

その後の天龍同盟はもしかしたら蛇足だったのかもしれない。

かくして、1990年天龍は新団体SWSへと旅立つ。

だがSWSは夢見ていたユートピアではなく、現実は厳しかった。

そんな苦難の中、天龍は不意に呟く。

「魂が通い合うやつが欲しい」

天龍の魂が通い合うパートナーといえばもちろん原しかいない。

だが原は解雇後失踪しており、消息不明であった。

そんな原を天龍は執念で探し当てた。

その後、天龍は2年ぶりに刎頸の交わりで結ばれた盟友とまた走り出す。

以前よりは力が衰えてしまったランニングメイトではあったが、天龍の顔には安心感と
信頼感で満ち満ちていた。

その後、SWS崩壊、WAR旗揚げを見届け、原は再度レスリングシューズを脱ぐ。

身体は限界であった。

地元長崎での最後の試合、リングで若手の騎馬に乗り、観客の喝采を一身に浴びる原を
横目で見ながら、天龍は独り花道を下がる。

その背中は泣いているようにも見えた。

そんな天龍の姿には誰も気付かず、リング上の仕事をやり遂げた男に万雷の拍手だ。

その中を天龍は、リング上で最後の脚光を浴びる老友の姿を見やることなく、やや前方を
見つめて歩を独り進める。

そのごつい両手はずっと拍手を打ち鳴らし続けている。

ただただ打ち鳴らし続けている。

盟友への感謝と労いと尊敬のために、拍手をずっと打ち鳴らし続けている。

天龍源一郎プロレス35周年記念興行
Revolution~WE ALL WANT TO CHANGE THE WORLD~

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